約 750,416 件
https://w.atwiki.jp/vocaloidss/pages/144.html
この作品は、2008年度の初音ミクの誕生日企画「ボカロSS投稿所PS企画”Miku Hatsune”」に投稿された作品です。 作者名は、人気作品アンケートが終了するまで非公開とさせて頂いております。 ――さあ、御伽噺をしてあげようか。 やあ。よく来たね。まずはそこに掛けてごらん。寒かったろう? 今、温かいお茶を入れてあげよう。 困ったな。そんな顔をしなくていいよ。僕は君をとって喰いやしないさ。さあ、お茶が入った。どうぞ。熱いから気をつけてね。 ――美味しい? そう、良かった。それ、何も入ってなきゃいいね? ふふ。冗談だよ。毒なんて入れたら僕が君を食べられなくなってしまうじゃないか。 ……冗談だよ。そんな顔しないでよ。まあいい。 さて、それじゃあ御伽噺をはじめようか。 いいや、これは御伽噺ではないね。だって全てが真実さ。そう、僕がいたあの場所についての話。 君が見た、あの場所についての話さ。 さあ。御伽噺をしてあげようか。 ◆ 僕があの場所を見つけたきっかけは、そう、君と全く同じだったと言っていい。捨てられたんだ。親にね。なに、別にそんな珍しいことじゃないさ。特にあの頃は、そう、ありふれた日常だったといっていい。あの頃僕らの国は飢饉だったからね。子どもを捨てるなんてことは良くあった。 僕はあの森に捨てられた。君と同じにね。 深い森だった。父に連れられてその森まで来たとき、正直なところ僕は自分が捨てられることを理解していた。聡い子どもだったんだ。それでも僕は泣き喚いたりしなかった。正しい子どもを演じていた。僕は何も判らないふりをしていたんだ。 どうしてかって? さあ。それは僕にも良く判らない。でも君なら判るでしょう? ふふ、そう。君と同じさ。判らないまま、僕らは無知な子どものふりをしていた。それが僕らが生き残る術だったんだからね。僕らは子どもだったけれど、その術を理解して生きていた。利口な子どもは時として大人に嫌われていたからね。君も僕と同じ、利口な子どもだったということさ。だから利口な僕らは、あの時でも何も知らないふりを続けていた。 判っていたんだ。喚いたところで泣いたところで捨てられていくことには違いない。それどころか下手に泣き喚いたら捨てられるのではなく、その場で父の手によって生を終わることになるかもしれないってね。さすがにそれは嫌だった。だから僕は、捨てられることを許容した。恐らくね。 そうして父は去っていった。最後の言葉はなんだったっけな? もう忘れちゃったや。 僕は父の背を見送って、それから森の中を歩き出した。パンなんて持ってなかったから、どこかの兄妹みたいな真似は出来なかったけれどね。 それが間違いだったんだろう。僕はあっさり行き倒れて――そして君たちに拾ってもらった。 ◆ 目覚めて最初に耳に届いた君の歌声は、今でも僕の中に息づいているんだ。 嫌だな。どうしてそんな胡散臭そうな顔をするの。 本当だよ。僕は君の歌声に惚れたんだ。君は苦しそうに笑っていて、その笑顔にも惹かれたけれどね。 さすが、あのサーカスの歌姫と呼ばれるだけはある。 そうだ。腹を減らしていた僕に食べ物を分けてくれたあの獣は元気かい? あれから僕は新しい味を知ったんだけどね。 座長は相変わらずのようだね。あの二人はどうだろう? ――ああ、ごめん。そんな顔をさせるつもりじゃなかったんだ。……ね、ほら。顔を上げて。 君はまだ歌っているのかい? あの場所で? そう。そうか。そうだったね。終わりのない催しだと言ったのは座長だったか。 風が出てきた。窓がすこし煩いね。いっそ開け放してしまおうか。待っていて。……ほら。ああ、いい風だ。君の髪と同じ匂いがするよ。いや、どうかな? 少しばかりあの獣の餌の臭いも混じっているかな? あの場所はここから近いんだったね。 おや。鴉が鳴いている。こんな夜中に煩いことだ。 どうだい君。少し外を散歩に行かないかい? こんな夜だ。御伽噺にはとてもいいじゃないか。歩きながら話すというのも少しばかりおつではないかい? 君、知っていたかい? 御伽噺は夜伽話。夜に話す戯言さ。とても似合うと思わないか? さあ、お手をどうぞ。異形の歌姫。僕の愛しい歌姫。 ◆ やはり外は寒いね。僕の上着を貸してあげよう。ああ、大丈夫。怯えなくていい。大丈夫。君があそこから逃げ出してきたことくらい判っているさ。 僕がそうだったようにね。 近づくのはやめておこうか。あの獣の鼻は侮れない。座長の勘も恐ろしいものだけれどね。 さて、じゃあこのあたりで座ろうか。切り株の椅子なんて、なかなか御洒落じゃないか。誰が切ったものだか判った物じゃないけれどね。 今日も微かに歓声が聞こえるね。相変わらずあのサーカスは盛況なようだ。楽しそうで何よりだ。 何も知らない人間は楽しそうでいい。まったく、反吐が出る幸せだ。 もっとも僕だってあの場所で楽しんでいたのは事実さ。だってそうだろう? あの場所では毎晩君の歌声が聴けた。それはなんと贅沢なことだろう! パンやミルクよりずっと素晴らしいご馳走だった。 どうだい君。今宵も歌ってくれないか? 久々の再会に、一曲でいいから。 ――本当かい! それはありがたい。じゃあ心して聴くとしよう。 ◆ やはりいい声だ。断末魔の叫びにも似た絶望を、君の歌は体現している。だからだろうね。僕らの心に直接響く。 歌いながらでいい。僕の戯言の続きを聞いてくれるかな。 僕はあの場所にどれくらいいただろう? そう長くはなかったはずだけれど、僕の身体が腐るくらいにはいたんだろうね。 僕は何かに怯えていた。何にだろう? 今となっては僕には判らず、僕に判らないということは、この世に判る人間は誰一人としていなくなってしまったということだ。別に構わないけれど。 僕はあの場所から逃げ出した。なんということだろう。恩知らずだと恥じ入るしかない。あの一団に拾ってもらわなければ、僕は最初に行き倒れたあの場所で朽ち果て、森の一部になっていただろうに。 それでも僕は「何か」に怯えて、あの場所を逃げ出した。そうして今、ここにいる。 僕はどこへ行こうとしているのか、町へ戻るつもりはないのか。僕は僕自身に毎夜問いかけるんだ。けれども君、不思議なことに答えが出たことはないんだ。君はどうだい? 答えは出たかい? ああ、いい。いいんだ。答えなくて。君はただ歌ってくれていればいい。そう、無邪気な子どものように、いいや、そう振舞う利口な子どもみたいに、ただ笑って歌っていればいい。それが僕の望みだ。 この歌声が、永久に響けばいいさ。そして町にいる馬鹿げた幸せを謳歌する人間たちに届く日を祈ろう。 絶望を、聴けばいい。 ◆ ああ。おや。どうしたんだい。歌姫。眠ってしまったのか。そうか。こんな場所で眠ってしまうと身体に良くないだろう。君のいるべき場所へ僕が連れて行ってあげなければならないね。 さて。ところで僕は君に言わなければならないことがある。 眠り姫。愛しい愛しい眠り姫。異形の歌姫。愛しい愛しい異形の歌姫。 あの場所を逃れることを夢見てきた姫よ。僕の声が聞こえるかい? ここまで話してきた御伽噺の中、僕はたった一つだけ君に嘘を吐いた。 それが何なのかは―― 言わないほうが、花だろう? ◆ さあ。御伽噺をはじめようか。 そのサーカスは、暗い森の中にある。 森の奥の奥にあるんだ―― ――Fin.
https://w.atwiki.jp/hmiku/pages/45474.html
じだいをこえたあそびばで【登録タグ VOCALOID し 初音ミク 曲 瀬名航】 作詞:瀬名航 作曲:瀬名航 編曲:瀬名航 唄:初音ミク 曲紹介 CBCラジオ 開局70周年キャンペーンソング。日本の民間メディアとして「初めての音」を届けたことにちなみ、公式イメージキャラクターに「初音ミク」が起用されました。 Music Words 瀬名航illustration ASCAN Assistant 出汁汁 Movie House* 歌詞 (youtube概要欄より転載) 始まりの合図の音がなる ずっと、ずっと話そう! おしゃべりだね 僕らは狭い部屋で笑ってた 何もないあの時代は 名残惜しく過ぎて 少しずつ変わっていく 街も 価値観も 大切な思い出になっていくから 最初は小さな遊び場 段々大きな輪になる 全力で楽しむ君も 遠くで眺める君も 仲間だ さあ 思い出ごと進め 未来で繋がりますように 冗談みたいなその話 聞かせてみて? ひとりなのに、ひとりじゃない 僕らおんなじ世界で 狭い部屋の声を聴いて ふふっと笑っちゃうね 変わり続ける世界 置き去りにされそうでも 変わらないままで居てくれた 拠り所なんだ 度肝抜いたニュースも あるあるなお便りも 一つ一つが繋がっていく その軌跡を見届けよう 嬉しかったら話をしよう 辛くなったら耳を塞ごう 全力で生き抜く君も 息苦しそうな君も 仲間だ さあ 今楽しみ尽くせ 未来で後悔しないように 夢みたいなその話 聞かせてみて? ひとりなのに、ひとりじゃない 僕らおんなじ世界で 狭い部屋の声を聴いて グッと来ちゃうかもね 大事なところで噛んじゃって 相槌が大袈裟になって 間違えたことにシュンとして それも笑い話になって 不器用な僕らの言葉が 誰かに刺されと願ってる もう一歩踏み出すその勇気に エール送り続ける 離れていても大丈夫 ……むしろ程よい距離感じゃん? さあ 未来に出会う君へ ワクワクが届きますように 時代を超えた遊び場で 巡り合わせ ひとりなのに、ひとりじゃない 僕らおんなじ空の下 狭い部屋で声を聴いて ぎゅっと夢を抱きしめて とっておきのエピソードを いつか、いつか話そう。 コメント 作成いたしました!CBCラジオ70周年おめでとうございます!こういう曲、大好き! -- なりあさ (2021-10-09 18 53 24) 少し修正しました -- 編集者 (2021-10-09 23 02 35) この曲のあったかい雰囲気が好き -- 名無しさん (2022-02-06 14 57 24) これ、無意識に歌っちゃう -- 名無しの権兵衛 (2022-03-12 20 58 25) 結構マイナーな曲なので歌詞があって嬉しいです -- 文 (2023-11-04 13 18 55) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/akatonbowiki/pages/10651.html
このページはこちらに移転しました 僕らのチェルノブイリ 作詞/プロジェクト自慰 目指したのはチェルノブイリ 文庫本、膝に乗せて 遥か向こうの山並に 視線送れば 穏やかな 春の気配 青い木々 暖かな 陽の光 降り注ぐ 人生の意味なんて 追い求めるだけ無駄だけど 僕らが愛した人の名前も だけど僕らは今 恋の迷子だ いつか暮れる陽が 窓に差し込む頃 チェルノブイリ 残り5000マイル 想った分だけ遠くに感じる 無限の輪廻 繰り返し巡り合った チェルノブイリ 残り5000マイル 僕らはあなたの ほんの一部にでもなれたら もうじき留まるのはチェルノブイリ 席を立つ準備する人々 本を閉じバッグに仕舞えば ハラリ、シオリ舞い落ちて 街灯だけ 春の夕べ 騒ぐ虫達 聞きながら 踏みしめる チェルノブイリ
https://w.atwiki.jp/talesrowa/pages/194.html
僕の肉 あいするひとが、今ちかくにいる。 「エミリオ…、本当に良かった…無事で…」 ちによごれた僕に、こんな僕なのに、やさしく呼びかけてくれている。 リオンはミクトランの命により、参加者全員を殺さなければいけなかった。 そうすれば、何でも願いを叶えてくれる。 僕は――― 僕は自分一人で一歩一歩と歩ける人生が欲しい。 ヒューゴにも、ミクトランにも操られない。 握られていない心臓であらゆる気持ちを素直に受け止め、そして想いを何かに注ぐ。 糸の絡まっていない手足は自由で奔放に動かせる足は愛する人の元に向かい、そして全てを抱くことが出来るようになった腕でその愛する人を抱きしめるのだ。 そして、閉ざすこともなくなった口で、幸せそうに笑ってみたい―――― 「エミリオ…傷がとてもひどいわ。 あの女の子ならばダオスさん達が防いでくれている。どうか…休んで」 僕にとっての全てがここにいる。 誰よりも、愛しい人。 「マリ…アン」 リオンにはその姿が眼に映っただけで、全ての世界の色が変わるようだった。 僕をこの暗い世界から導き出す、唯一の光――― もう、嫌なのだ。 ミクトランに操られるのも。 操られる人生の苦しさは充分に知っているのに、僕はまた同じ事をしている。 まだバトルロワイヤルが始まったばかりなのに僕は沢山の人を傷つけた。 白蛇の髪の男はともかく、快活そうな褐色の肌の男、何も知らないであろう優しそうな表情をたたえた獣人の女性、忍者の少年、マリアンと共にいた赤髪の男。 取り返しの付かないことをしてしまった。マリアンは僕を赦しはしないだろう。 向き合いたい女性にどうして血塗れの自分を晒すことができよう。 すると奥で金髪の男達と戦っていた少女は化け物に姿を変えた。 驚くマリアンを見て、思う。 化け物か。 僕もそれとは何も変わらないのに。 マリアンの恐怖に歪む顔を見て、それは自分が赤髪の男を襲撃した時の顔と同じだと思った。 なのに、今彼女は僕の体の心配までしてくれている。 「大丈夫だ、マリアン。僕はこれ以上君を傷つけさせやしない」 それが僕に出来る罪滅ぼしであり、本当の気持ち。 例え、マリアンに赦されなくとも、だからこそ僕はマリアンを守りたい。 化け物――シャーリィの放った魔力を帯びた弾丸が、流れ弾となってこちらにまで襲いかかってくる。 マリアンは悲鳴を上げてその場で硬直する。とっさに僕はマリアンの前に飛び出す。 「マリアン!」 シャルティエを振り、マリアンに迫っていた弾丸をたたき落とす。地面がビシビシッと小さく裂ける。 「僕は今はあの二人の様に戦うのは難しい。だけれど、絶対に君は守ってみせる」 「エミリオ…あなたは…本当にエミリオなのね」 マリアンの真っ直ぐな眼。 どこまでも純粋で、僕の心配をしてくれている眼。 まだ、彼女はそんな眼を僕に向けている。目の下はひどく赤く腫れている。相当泣きはらしたのだろう。僕のせいでとても辛い思いをさせたのに、なのに。 「…うん」 固い決心が宿った。 そう、これでいいんだ。 もう泣かせたりはしないんだ。 僕が流させた涙は僕が拭ってみせる。 『……だ、マリアン。僕はこれ以上君を傷つけさせやしない』 その会話を暗い部屋で聴いている者がいた。 大きく、複雑に模様が彫り込まれた机にはこれまた大きなチェスの卓の様なものが置いてあり、そこなはゲームの人数分の駒が置いてある。 よく見るとそのチェスの台は会場の地図を模したものであり、駒は胴から上の参加者の姿が象られている。 それぞれの駒は独りでに移動をしたりもしていてそれは不気味な光景だった。 そして机の椅子に腰掛けている男―――ミクトランはそのチェス台の右上の所、リオンとマリアンを模した駒を見る。 「ふん、馬鹿な男だ。 所詮は十と六の少年か。 人の情などつまらぬものだな」 しかしミクトランの顔は冷ややかに笑っていた。 「主人に逆らうか、リオン=マグナス。 お前は私がこのゲームで楽しむ為の大事なマーダーだ。」 フフフ、と笑いをこぼす。 残忍な眼光がその暗い眼に宿った。 「こちらが手を出すのは避けたいが… 貴様が生ぬるい感情に流されるような言うことも訊けない悪い子ならば仕方ないな。 私に逆らえばどうなるか教えてやろう。 ははははは!!!」 暗い部屋にまがまがしい笑い声が響いた。 ダオスが地面を踏みしめてエネルギーの塊を化け物にぶつける。 化け物はそれに怯んでゆく。 彼はとても強い。 そしてその傍らの僕と同じ位の歳かそれ以下の少年も。 僕は彼らの眼を知っている。 かつて共に行動したうるさい奴ら スタン達。 何かを、必死で守る者の眼だ。 いつもは怪訝な顔をして奴らを見ていたけれど、本当は羨ましかった。 どこまでも真っ直ぐに、自分の道を突き進む姿。 それが眩しくて仕方がなかった。 僕も僕の行動には後悔はしていなかった。だけれど。一つそれがあるとしたら自分の弱さを認めることが出来なかった心。 力は…僕の握りしめるシャルティエの力は、きっと大切な者を守る為に振るわねばならないのだ。 僕は自分の心の弱さも受け入れなければならない。 そして今はそれを受け止めてくれる人もいる。 そう、そして僕も彼らの様に――― 「エミリオ…よかった…あなたを見たとき…私…私……」 「マリアン…すまなかった…今まで…」 二人はお互いに近づき合い、リオンは腰を下ろした。 マリアンは座ったまま、腕をリオンに広げる。 リオンはそのマリアンの姿に目をわずかに潤ませ、口がほんの少し震える。 「…ありがとう、ありがとう…」 自分でも驚く程の素直な言葉が出た。 このゲームでこんな言葉を口にするなんて。 どんどん心が暖かくなっていった。 愛しい人。 もう、苦しませたりはしない。 リオンも腕を広げ、マリアンに向ける。 少しずつ重なろうとする体。 二人は抱き合う 筈だった。 ピ、とマリアンの首から聞こえた電子音。 「エ、ミ゛………」 「え…?」 ボン、という鈍い音がした。 視界が、赤く、染まる。 マリアンの体が、自分の胸に不自然にもたれ掛かる。 顔に何かがかかった。 生暖かい。 なのにどんどん心が冷たくなってゆくのを感じる。 何が起きた? 何が? 何が…? マリアン…マリアンは… マリアンの顔に視線を落とす。 どういうことだ?ここも真っ赤じゃないか。 マリアンの顔が赤いのか? 手でマリアンの顔に触れようとする。 「あ………?」 なかった。 マリアンにはもう頭がなかった。 マリアンには、顔がない。 まるで、首のないマネキン人形の様に自分にもたれ掛かっていて。 「あ、あ…?」 ただ視線に入るのは、真っ赤になって潰れていろんな血管や管が飛び出した、破損した首元。 この、赤いのは。 僕の顔やマリアンを濡らしている生暖かくてどろりとした赤いのは、血? 僕の肩の上でだらりと垂れた腕。 動かなかった。 「あ、あ、あ…!」 リオンの顔が悲劇にひどく歪む。 眼は大きく見開かれ、開けた口が次第にこれ以上ない位に震える。 マリアンを強く抱いた自分の腕や手の体温が、どっと下がる。 どうなっているんだ? マリアンは…マリアンは? 「あああああああああああ!!!!!!」 リオンは、マリアンだったものを強く抱いて叫び狂った。 ダオスとミトスはシャーリィを撃退し、マーテルのいる所へ戻った。 しかしそこで待っていたのは壮絶な光景だった。 「何が…あったというのだ…」 さすがのダオスもその光景に我を疑う。 放心したように震えるマーテル。 その側には見知らぬ黒髪の少年。 首の無い女性。 「な…なんなんだよあれは…」 ミトスも眼を見開くばかりだった。 「いやだ!いやだ!いやだ!マリアン!!マリアン!!マリアンー!!」 少年は首の無い女性、マリアンの元で四つん這いになり、必死で何かをかき集めていた。 それは粉々にふきとんでしまったマリアンの顔の一部や、崩れた脳味噌。 必死に必死に泣き叫びながらそれを一つにかき集める。 まるで、元の形に戻したがっている様に。 リオンは顔をくしゃくしゃにして、涙や鼻水、涎を止めどなくこぼしながらそれを続ける。 ちらばる血管や肉片がぐしゃぐしゃとリオンの元にかき集められてゆく。 当然、元の形に戻るはずもない。 「マリアン!どうして!どうして! 答えてよ!マリアン…!」 元から他者の返り血に染まっていたリオンの服を、マリアンのまだ鮮やかな血が汚してゆく。 そして一つ転がっているものを見つける。 マリアンの眼球。 「う…う…!!」 その瞳はこちらを向いて、確かに転がっているのにそれは決してリオンを映しはしない。 血と、脂肪に汚れて、あの澄んだ瞳は、もう、ない。 「ああああああっ!!!!!」 「お前は…何者だ…?」 ダオスはなんとか言葉を紡ぎ出す。 しかしその言葉は全くリオンには届いていなかった。 叫びながら無我夢中で手を動かす。 すると リオンの頭の中に声が聞こえた。 『リオン=マグナス…私のプレゼントは気に入って貰えたかな?』 静かに涙や血で顔を濡らした頭を上げてリオンは呟いた。 「ミク…トラン…?」 ダオスはそのリオンの言葉を聴き逃さなかった。 「(独り言か…?ミクトラン…?奴はミクトランと通信でも取れるのか?)」 呆然とするリオンにミクトランはリオンの頭の中で続ける。 『私に逆らった罰だ。つまらん女にほだされるとは。 喜んで貰えて何よりだ。なかなか面白い見せ物だよ』 リオンの中にミクトランの笑い声が聞こえる中、マリアンの肉片などを握りしめ、がくがくと震える。 「なんで…なんで…貴様……」 しかしその言葉に力は無く、今にも消え入りそうだった。 『ははははは!! そうだな、この件はもう赦してやっても良い。 そうだな。お前がこれからも従順に私の言うことを聞くのならば、その女を生き返らせてやらんでもない。 どうだ。私にしては寛大な提案だろう。 では嬉しい行動を期待している』 そこでミクトランの声は途絶えた。 「………」 リオンは無言でマリアンの頭の一部を抱きながら顔を伏せた。 固く口を結び、涙がその破片に落ちてゆく。 「ちょっと!なんなんだよお前!マリアンさんが…!」 ミトスは声を上げるとダオスは腕を出して制止した。 リオンはやがてゆっくりと立ち上がる。ダオス達を、少しも見ることなく。 マーテルもその姿に声を掛けることが出来なかった。 そして緩慢に、東に向けて歩き出す。 マリアンだったものを胸に抱きながら、まるで死人の様に。 「ま、待て!!」 しかしダオスは再びミトスを止めた。 「放っておけ」 「なんで!!」 「……今の彼を止めても何もならないだろう…」 ふらふらと、うつむいてただ歩いてゆく黒髪の少年。 前髪に隠れてその顔は見えなかったが――― 「…とりあえず、マリアンを弔ってやろう」 「そう…だね…」 ミトスも頷いた。 あまりにもむごいマリアンの姿をその眼に映して。 ダオスは東に消えてゆく少年を一瞥すると、首の無いマリアンの遺骸を抱く。 皮肉な程に眩しい朝日が木々を照らしていた。 【ダオス 生存確認】 所持品:エメラルドリング 状態:TP4分の3消費 混乱 第一行動方針:マーテルを守る 第二行動方針:マーテルと行動 第三行動方針:打開策を考える 第四行動方針:敵は殺す 現在位置:B7の森林地帯 【ミトス 生存確認】 所持品:ロングソード 邪剣ファフニール ???? 状態:気絶 後頭部に打撲 擦り傷、足に軽裂傷、金的に打撃 TPを微消費 混乱 第一行動方針:マーテルを守る 第二行動方針:マーテルと行動 第三行動方針:打開策を考える 第四行動方針:クラトスとの合流 現在位置:B7の森林地帯 【マーテル 生存確認】 所持品:双眼鏡 アクアマント 状態:悲哀 混乱 第一行動方針: 第二行動方針:ダオス達と行動 第三行動方針:ユアン、クラトスとの合流 現在位置:B7の森林地帯 【リオン 生存確認】 所持品:シャルティエ ディムロス 手榴弾×1 簡易レーダー マリアンの肉片 状態:全身に軽い火傷 全身に軽い凍傷 腹部に痛み 右腕に刀傷 酷い混乱 第一行動方針:マリアンを生き返らせる 現在位置:B7の森林地帯 【マリアン死亡】 【残り34人】 前 次
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/995.html
注意 善良なゆっくりが虐待されます。 虐待自体の描写は薄めです。 れいぱーの描写があります。 お兄さんの愛したれいむ 初めてゆっくりというものを飼いはじめた ハンドボールくらいの大きさのれいむ種というやつだ 独り身の寂しさを紛らわそうと立ち寄ったペットショップで その愛らしさに一目惚れして衝動買いした れいむは優しいペットショップのお姉さんやブリーダーのお兄さんに囲まれて 素晴らしくゆっくりと育った お行儀がよくいつもニコニコ ペットショップを訪れる人が誰も微笑み返さずにはいられない可愛いれいむ れいむと一緒に飼育グッズも買った ゆっくりフードにゆっくりハウス これからの季節に備えて防寒着のおくるみも れいむは気に入ってくれるかな とってもゆっくりしたおにいさんだ ペットショップからお兄さんの家へと帰る道すがられいむはゆっくりハウスのなかで幸せだった きょうからあのゆっくりとしたおにいさんといっしょのせいかつががはじまるんだ れいむの心はぽーかぽーかだった さあ、ここが新しいおうちだよ れいむをゆっくりハウスから出して、改めてご挨拶 ゆっくりしていってね たわいのない言葉だけど、俺の心は温かくなった とてもゆっくりしたおうちだよ ゆっくりハウスから出たれいむの心は弾む ゆっくりしていってね 改めてお兄さんにごあいさつした 可愛いれいむ お前がうちに来てからなんだか毎日が楽しいよ 柔らかくて温かくて、素直で優しい 綺麗なれいむ やさしいおにいさん れいむのこころはぽーかぽーか すてきでたのもしい ゆっくりとしたおにいさん ゆっくりとした日々が続く 仕事帰りの疲れた体も れいむを見ると癒される お前と会えて、本当に良かったよ まいにちがゆっくりしてるよ おにいさんはよるまでおしごとたいへんだけど おうちではれいむといっぱいあそんでくれる おにいさんとであえて、れいむほんとうにしあわせだよ ただいま いつも真っ先に迎えに来てくれるれいむがいない 代わりに部屋の奥かられいむのすすり泣くような声が聞こえる まさか…れいむ! おにいさんごめんなさい れいむなにもできなかったよ まどさんをわってれいぱーがおうちにはいってきても ふるえるだけで…なにも…できなかったよ… 暗い部屋の隅でれいむは泣いていた 頭からは植物の茎のようなものが何本も伸びている ゆっくりの妊娠だ 冷たい風の吹きこむ方を見ると窓ガラスが割られていた おにいさんごめんなさい、れいむはやくたたずだね おにいさんのおうちあらされちゃったよ れいぱーがまどさんをわってるあいだ、にげてかくれることしかかんがえられなかったよ ゆぐっゆぐっ れいむ、お前は悪くない 今体をきれいに拭いてやるからな その前にこの汚らわしい茎を引っこ抜くか ちょっと痛いかもしれないけど我慢してくれよ おにいさん、まって! まだひとりいきてるおちびちゃんがいるよ れいむ、れいぱーはきらいだよ… でも、おちびちゃんにつみはないよ! れいむ、何を言っている? 俺はお前を傷つけた奴を殺してやりたいくらい憎んでいる そしてそいつがお前に植え付けた その醜い塊も憎い おにいさん、そんなこといわないで ほかのおちびちゃんたちはみんなえいえんにゆっくりしちゃったけど、 このおちびちゃんはいっしょうけんめいいきようとしてるよ れいむ、このおちびちゃんにはしあわせになってもらいたいよ! れいむ、お前は優しいな だが俺はその憎たらしい饅頭を養うつもりは無い 引き抜くぞ れいむを上から押さえつけたとき、俺は涙を流していた おにいさん、おねがいします れいむ、もういっしょうほかにはおねがいごとなんてしないよ おにいさんのいうことききます、おちびちゃんにもいいきかせます だからおねがい、おちびちゃんのこところさないで!! その夜一晩、れいむは泣き続けていた 翌朝も朝の挨拶をし、餌を食べて普段通りの生活をしているが、お互いぎくしゃくしている 顔はずっと暗いままだった 子どもと茎の捨てられたゴミ箱を苦しそうに眺めている おにいさん。れいむ、ぶりーだーのおにいさんからきかされてたよ おちびちゃんをかってにつくるのはよくないって。かいぬしさんがゆっくりできないって れいむもね、ずっとそうおもってたよ。おにいさんがゆっくりしてくれるなら、おちびゃんはがまんしようって でもね、おちびちゃんができて、なにかがかわっちゃったよ。れいぱーのこでも、そだててあげたかったよ… れいむは俺に恨み言は言わなかった だがその顔にはいつも影があるようだった なんだ、その顔は。何が言いたい。 あんなに愛おしかった、あんなに綺麗だったれいむが、別のものに変わってしまったように思えた おにいさん、いたいよ! やめてね、ゆっくりやめてね! ゆっくりごめんなさい!れいむ、なにかわるいことしたならあやまります! おねがいだから、もうぶたないで! 目の前でれいむが泣いている 気が付くと俺は右手にベルトを握りしめていた れいむの体中にたくさんの傷がついている 俺は…俺は何をやっているんだ… おにいさん、なかないで れいむもおにいさんにべるとさんでぶたれていたかったけど、 おにいさんもきっとかなしいことがあったんだね ぺーろぺーろ、いつものおにいさんにゆっくりもどってね その日から俺は度々れいむに暴力を振るうようになった 何をやっているんだ、れいむはこんな仕打ちをうけるようなこと、何もしていないじゃないか 自分に非は無いのに、泣きながら謝っている それなのに…俺はお前のその目を見ると… おにいさんはれいむをぶったあと、 かならずれいむをだきしめてなくよ。ごめん、ごめんって言いながら れいむ、わからないよ どうしてこんなにやさしいおにいさんが、あんなことするのか 最近れいむの俺を見る目が変わってきた まるで俺を憐れむような、俺を見下すような目だ 俺はお前の飼い主だぞ いや…理不尽な暴力を振るうような男は、飼い主失格か おにいさん、れいむはおにいさんのこと、にくんでなんていないよ! おにいさんのこと、みくだしたりなんてしてないよ! どうしてそんなこというの!? このままじゃ…れいむ、ほんとうにおにいさんのこときらいになっちゃうよ! そうか。それなら俺のことを嫌えばいい。さあ憎め。 俺がお前のことをどれだけ愛しているのか、 お前が襲われたあの日、俺がどれだけ悲しんだのか、お前にはわからないようだな だからそうやって、口には出さなくても、俺を恨めしそうな顔で睨むんだろう そんなことないよ! 黙れ。お前は俺よりも、レイパーの子どもが好きなんだろう そんなことないよ! 黙れ…黙れ…黙れ… 金バッチを毟り取られ、れいむは外に放り出された 体中は痣だらけ、うっすらと餡子のにじみ出ている部分もある れいむは察した。おにいさんはれいむがいないほうがゆっくりできるんだね それなられいむはでていくよ、きょうまでほんとうにありがとう、ゆっくりさようなら、おにいさん れいむのいない生活が、また始まった だがれいむは俺の心にこびり付いて離れない 朝、誰も食べないゆっくりフードを用意してしまう 夜、誰も待っていない部屋に向かって、ただいまと言ってしまう 冬の街は何もかもが冷たい 商店街の路地裏の無造作に捨てられた新聞紙にれいむは包まる 途中のゴミ捨て場で拾ったキャベツの芯を、ゆっくりと咀嚼すると涙があふれた 餌が不味いから悲しいのではない。一人ぼっちの食事が悲しいのだ れいむよ、俺を憎むがいい 俺を憎めば憎むほどお前は俺のことを忘れられまい 俺はお前のことを生涯忘れない お前もその体中の傷が疼く度俺を思い出すことだろう、その度に俺と同じ苦しみを味わえ れいむは改めて思い出した ブリーダーのお兄さんやペットショップのお姉さんに教えてもらったことを 野良のゆっくりは弱く惨めで無様な生き物なのだ 特に人間の助け無しで生きていく術をしらない「元」飼いゆっくりは れいむは考えた すっきりを強要されることも冬の寒さも、不潔な住処も不味いご飯も 愛する者から受ける暴力に比べれば何ということは無い そう思い込んで残りわずかのゆん生を、ただ遣り過ごそう お兄さんの愛したれいむ 終
https://w.atwiki.jp/kibasure/pages/38.html
前 寒い。 そう、思った。 薄暗い部屋の中はどこもかしこも無表情な金属に覆われている。まるで全てを拒んでいるような、そんな圧迫感。嫌な感触だ。 そこまで考えたところで腹部に鋭い痛みが目覚めた。腹を食い破られたかのような激痛が意識をあるべき覚醒状態に押し戻す。 「……アオイ、起きたか?」 後ろから聞こえたおずおずとした声の主は見なくても分かっている。私の「弟」。クソ忌々しい獣人どものリーダー。 「分かってるなら聞くな」 「うん」 声聞の声が暗闇に吸い込まれていく。なぜかそれに神経が逆撫でされて、私は憚ることなく舌打ちした。 「辛いか?」 「辛いに決まってるだろう。バカか?」 「そうだね。そうだ」 頼みの防護服は脱がされており、今の私は薄布一枚だけで床に転がされている。手首と足首も丁寧に縛られていて、自分ではまず解けないだろう。おまけに腹の傷がじくじくと痛む。こんな状態の人間に辛いかと聞いてどうする。バカが。 獣人の前で芋虫みたいに這うなんて屈辱だったが、しかたがない。なんとか体を捻って声聞の方を向く。暗い部屋の中、緑のカプセルをバックに浮かび上がる白い影がそこにあった。私の視線に気づいたのか、声聞はカプセルを指さして説明する。 「これが獣人培養装置。俺たちを産み出した装置だ」 「知らないはずがないだろう」 「……そうだったな」 声聞はそう呟くと、座っていた椅子を立ってこちらに来た。 「何をする気だ?」 「傷の手当て。痛むなら鎮痛剤を塗る」 「いらん」 「でも、辛そうだ。血の匂いもする」 「いらんと言っているだろう! 獣人が私に触るな!」 精一杯怒鳴ったつもりだったが、口から出た声はだいぶ弱々しかった。私の態度に何の反応も示すことなく、声聞はすとんと椅子に座る。それがまた癇に障る。この苛立ちを誰かにぶつけることもできず、私は縛られた手で思いきり床を殴った。 「少し、緩めようか」 「あ?」 「その縄。痛いか?」 「……そんなことをするぐらいだったら解け」 「そうしたら、アオイはどうする?」 「お前を殺してやる」 「なら、駄目だ。俺は約束を守らないと」 「約束?」 「そうだよ、約束。俺は約束を守らないといけないんだ」 闇の中で聞こえる声聞の声は抑揚を欠いていた。不気味なまでによく似ている。こいつに殺されたフェンリルの声に。 「アオイ」 「……なんだ」 「アオイは、獣人が嫌い?」 「わざわざ聞くようなことか?」 「嫌い、なの?」 「そうだ」 「三太郎のことは、嫌いだった?」 「嫌いに決まってるだろう」 「それは、悲しいことだよ」 「……好きに思え」 バカみたいな会話を繰り返しながら、私は嫌な空気をひしひしと感じていた。今のこいつは正常じゃない。同じ平淡さでも、フェンリルとこいつでは思いきり違う。何かがずれている。壊れているのかもしれない。いつの間にか嫌な汗で体がぐっしょりと濡れていた。 そもそもなぜコイツは私を殺さないのか。保健所の職員としていくつもの集落を焼き払い、数え切れないほどの獣人を殺した。加えてあの雌、六道と言ったか。彼女を自分の手で殺す原因にもなった。公私共に恨みは十二分のはずだ。殺さない理由がない。 「……おい」 「何?」 「どうして、私を殺さない」 「光が欲しかったんだ」 「はぁ?」 支離滅裂な回答。先程から胸を圧迫する何かがどんどん強くなってくる。こいつ、狂っているのかもしれない。 そう考えると昔見た映像が頭の中に蘇ってきた。保健所の研修で見せられた、人間が獣人に殺される動画。 腹を裂かれて内臓を引きずり出された女。首を捩じ切られた男。潰された目を押さえて泣き叫ぶ少女。 どれもこれも無残な姿だった。戦意高揚のために上映されたそれらの映像が暗闇の中で現実味を帯びて迫ってくる。息苦しさを振り払おうと私は何度か息を大きく吸った。 「アオイ」 落ち着いた声。それが逆に怖い。自分の名前を呼ばれるのがこんなにも怖いことだとは思いもしなかった。 「……どうした」 「聞きたいことがあるんだ。どうしても聞きたいことが」 「言ってみろ」 ふつりとロウソクを吹き消すように嫌な気配が途切れる。 「人間の中に獣人を愛せる人、いるか?」 「……」 そう問われて思い浮かんだのはある研究員だった。いつもフェンリルの周りをうろちょろしていた若い男。陰気臭い顔で何度も何度もフェンリルに話しかけていた。私が無駄だとせせら笑うと、そんなことはないと顔を真っ赤にして怒っていたものだ。彼は何を考えていたのだろう。いつも悲しげだった彼は。軽蔑すらしていたのに、今になって気になる。 「いる、と思う」 自分は嘘をついたのかもしれない。本当のことを言ったのかもしれない。それでも、声聞にそう言ってやりたいと思う自分がいた。 「ありがとう、アオイ」 声聞は穏やかな声でそう言うと椅子の上で膝を抱えてうつむいた。カプセルの明かりの影になって見えないが、泣いているのかもしれなかった。 なんだろう、この感情は。この胸に湧き上がる何か。まさか自分は同情しているのだろうか。獣人に、それもよりにもよって一番憎んでいるはずの「弟」に。 弱気になった自分を励まそうと吐いてみた唾はすぐそばに落ちた。もう言うべき悪態も思いつかない。必死になって胸の中に溜めてきたもの、どす黒い感情のマグマはきれいさっぱり消えてなくなっていた。 それどころか。 「……頼みたい、ことがある」 こんなことまで口にしていた。 「お前のレシピを見せてほしい」 「……?」 顔を上げた声聞が不思議そうにこちらを見ている。獣人に何かを頼むなど考えがたいことだったが、今はそれが正しいことのように思える。マグマの下から噴き出した感情は私に留まることを許さない。もう彼を憎むことはできないと、そのとき悟った。 「頼む。見せてくれ」 首を傾げた後、「弟」はこくんとうなずいた。 暗闇の中、ディスプレイに大量の文字列が流れていく。声聞に椅子に座らされた私はそれをじっと見ていた。 父が書いたレシピ。どうしてもその一つ一つが意味を持っているような気がしてしまう。気がつくと血色の瞳がじっと私を覗きこんでいた。 「声聞。これを書いたのは人間か?」 「そう聞いてる」 「私の、父なんだ」 驚きに目を見開く傍らの彼に向かって私は続ける。 「つまりお前と私は姉弟ってことになる」 「……そう、なのか」 スクロールさせる手を止め、声聞はじっと私を見つめている。狼顔では何を考えているのか分かりづらかったが、どうやら驚いているようだ。 「お前は新しい獣人なんだろう? どこを改良されたんだ?」 「より高い知能の付与と、服従遺伝子の消去」 「……」 知っていた。他に考えられない。それしかない。それでもディスプレイが滲みだすのは止められない。レシピは人と獣の遺伝子を融合させる連結部に差し掛かったところだった。 ふとそこで何かがひっかかった。小さな違和感にチクリと刺されて私は声聞を止める。 「今のところ……そう、そこに戻ってくれ」 「どうした?」 「おかしい……こんなところ、改造しようがないはずなのに」 人と獣の遺伝子を融合させる連結部のコードはそこまで長くない。戦争の原因になった服従遺伝子の部分の半分もないはずだ。なのにディスプレイに表示されているコードはそれより遥かに長い。前半部分は記憶の中にある通りだ。問題は後半部分。見たことのないコードだが、ところどころ似ている部分がある。人間なら誰もが知っているコード。全ての元凶であるコードに。 「これは……」 「アオイ? どうしたんだ?」 「新しい……服従遺伝子?」 「え」 しん、と空気が固まった。私の言葉を理解したのか、声聞は耳を伏せて小さく呻く。 「そんな、嘘だ……」 「……間違いない。これは服従遺伝子だ。それもおそらく、改良された」 「嘘だ!」 声聞は叫ぶとディスプレイを殴りつける。割れたガラスの破片が床に飛び散って冷ややかな響きをあげる。 「それじゃ、それじゃ、俺は皆に服従遺伝子を組み込んでいた? 獣人はまだ人間の支配から逃げられない?」 「……」 「そんな……じゃあ、何のために六道は……俺は……獣人は……ッ!」 床に何度も拳を叩きつけながら声聞はがたがたと体を震えさせていた。まるで凍えきった子犬のよう。やがてその震えが収まっていき、止まる。声聞は天を仰ぐ。 「何のために生きてんだよォォォ―ッ!」 天を衝く叫びが声聞の喉からほとばしった。 「CAST IN THE NAME OF GOD. YE NOT GUILTY」 ドアが開く音と共に流れ込んできた声がいとも簡単にそれを止めた。聞き覚えがあるようでない、ないようである、涼やかな声。 通路の明かりに照らされて立っているのは大きな影。見慣れた黒い毛皮だったが、鋼鉄の腕は片方なくなっている。 「この場合は神を人間と言い換えるべきかしらね。傲慢な試みではあるけれど」 声は残った腕に抱きかかえられた誰かのものだった。 「さて、どう言おうかしら。はじめまして? ひさしぶり? どう思う、声聞」 「あ……あ……」 人影を見つめて声聞はぺたんと座りこんでいる。胸が大きく上下している。 「そうね、おはようにしようかしら。おはよう、声聞」 「おはよう……縁覚」 震える声聞の挨拶を受け、フェンリルの腕の中で、縁覚と呼ばれた獣人は嫣然と微笑んだ。 次 アオイ 三太郎/フェンリル 声聞 縁覚
https://w.atwiki.jp/orisuta/pages/282.html
『ノー・リーズン』という、全身から拒絶のオーラを放つスタンドを使う青年に、昔会ったことがある。 僕がある『スタンド使い達』で構成された組織に身を置いていた時の話だ。 『ノー・リーズン』の本体は、スタンドとは正反対でどこか抜けているあっけらかんとした人だった。 「スタンドはその人の精神体」だという話だったが、本当にそうなのだろうかと考えた程である。 『ノー・リーズン』は近距離パワー型だが、他の多くのスタンドと同じく「能力」を持っていた。 簡単に言うと、「触れた物事をうやむやにする能力」である。 言葉で聞くとそれほどでもないようだがよくよく考えるととんでもない能力だ、と気付いたのは、 僕が彼と出会ってから2日経った頃だった。 その日、彼は僕達に割り当てられた部屋ではなく、 組織のアジト内で唯一大型テレビがある談話室の、くたびれた革のソファーに沈み込んでいた。 点けっぱなしのテレビはニュース番組で明日の天気を報じていた。雲のマークが地図を埋め尽くしている。 彼はリモコンを握ったまま、虚ろな目で画面を見ていた。 僕が部屋に入ると、彼は思い出したようにこちらを見た。 目が僕をとらえて、彼は「ええと、新入りか」と僕に尋ねる。 僕は頷いた。 僕はもう一つのソファーに腰を下ろした。 「今何を考えていたんですか」と、僕は尋ねた。その日はたしか彼が任務に出る前日だった。 答えたくなければ構わない、と僕は言った。ここの人たちはあまり他人に心を開かない。 こちらから話しかけても返事が返ってくるのはまれだ。 だから彼に尋ねたと言っても、ただの独り言のようなものだった。 彼の表情はいつもの能天気なものとは違っていた。 暫く沈黙があったので、僕は一応断ってから取り出した煙草に火を点けた。 暗い部屋に灰色の煙が散っていった。 「定期的にな、」 彼が静かに口を開いた。 部屋はテレビの明かりだけで、半分闇に沈んでいる。 「定期的に、こんな時が来るんだ。というか、ええと」 この人はあまり考えて喋る人ではない。この日も例外ではなかった。 「こんな時ってのはつまり、……定期的に気付くんだわ、おれ」 静かに彼は言った。僕は煙を肺いっぱいに吸い込んで、ゆっくり吐いた。 少しの沈黙のあと、彼は独り言のように続ける。実際、独り言だったように思う。 僕もあまり反応はしなかった。下手な相づちは意味を成さないように思えた。 「おれの『ノー・リーズン』はさ。物事を『うやむや』にできる」 彼はテレビに目を向けていたがどこも見ていなかった。 彼はどこか遠くを見ていた。 「『うやむや』ってのは突き詰めると……、『なかった』ことにならないか?」 天気予報は終わっていた。 彼が言いたいことはなんとなくわかった。 というより、彼が言いたいことこそが僕が気付いた彼の能力の恐ろしさだった。 「『事実をうやむや』にする。勿論、『曖昧』にする程度のこともあるけど、 『なかったこと』にだって出来るんだ、おれは」 僕は動かなかった。ガラスの灰皿に灰を落とした。 彼はリモコンを膝の上に乗せたままだ。テレビはCMを流している。 「スタンドは成長するんだろ。能力も強くなる。 なあ、おれ思うんだ。このまま戦い続けて強くなったら、 いやもしかしたら今のおれでも、」 煙草の煙は闇に溶ける。 「人ひとり、『うやむや』に出来そうなんだ」 テレビは飽きもせずCMを流していた。 沈黙がまたあって、そこで初めて僕は相づちをうつ。 「怖いですね」と。 そうなんだよ、と彼は答えた。「怖いってわかってるからいいんだけどさ」と続けた。 「考えてみろよ、人ひとり消せるんだ。そいつの存在を『うやむや』にすればそいつはいなかったことになる。 もっと成長すれば組織の敵なんか最初からないことにも出来る。 そしてもっと成長すれば……」 僕は煙草を灰皿に押し付けて火を消した。彼はリモコンでテレビの電源を落とした。 静かになった部屋で、彼と僕の目が合った。お互いの何かが通じた。 彼は言った。 「……だからおれ、深く考えるのが苦手なんだ」 「嫌い」じゃなくてですか、と尋ねると、彼は小さく笑って「苦手なんだよ」と繰り返した。 「そういうわけで、」 彼はおもむろに立ち上がって、僕のそばまで歩いてきた。 そうして縮まった僕らの距離は、2メートル。 「『ノー・リーズン』、今の一連の流れを『うやむや』にしろ」 NOとかかれたスタンドの拳が僕と彼に繰り出され、僕の視界は暗転した。 「ええと、新入りか?」 談話室には、『ノー・リーズン』の青年がいた。 「おれは明日任務だよ、参っちゃうぜ」 能天気な表情で、彼は向かいのソファーに座る僕に話し掛けた。 テレビはニュースのあとのバラエティ番組を流している。 テーブルには未使用のガラスの灰皿が、裏返しに置いてある。 「やだなァ~、おれ作戦とか頭使うの嫌なんだよ、深く考えるのが苦手でさあ」 軽く愚痴る彼を見て僕は、まあ大丈夫ですよ、と相づちをうった。 バラエティの企画に笑いながら「任務なくなんないかなァ」と愚痴る彼を残し、僕は退室する。 テレビの音に混じって、彼の無邪気な笑い声が聞こえてきた。 拳を食らった時、僕は僕のスタンドで『ノー・リーズン』の能力を『散らして』いたのだ。 彼はあの時のことを忘れていた。消えたテレビも吸った煙草も『なかったこと』になった。 彼の「気付いたこと」も、ただ僕が記憶するのみとなった。 結局彼とはその後何回か会話をしただけだったが、 彼はおそらく、自分の能力のことに「気付く」たび、自分でそれを『うやむや』にしていたのだろう。 それが、下手すれば世界の存在すら『うやむや』にできるかもしれない彼なりの「防御策」だったのかもしれない。 はじめ違和感を感じた彼のスタンドの姿も、そう不自然なことでもないのかもしれないと思った。 その後僕は組織を抜け、彼と二度と会うことはなかった。 -了- 使用させていただいたスタンド No.238 【スタンド名】 ノー・リーズン 【本体】 物事の原因や理由なんかを深く考えずに突っ走るタイプの青年 【能力】 触った物体・事象の理由をうやむやにしてその物体・事象を弱めたりなかったことにできる No.775 【スタンド名】 アースガーデン・Q 【本体】 自分の目的以外の物事に深く関わる事を避ける青年 【能力】 『本体へのスタンド能力』をコードを通して外へ散らす 一覧へ戻る 当wiki内に掲載されているすべての文章、画像等の無断転載、転用を禁止します。 [ トップページ ] [ ルールブック ] [ 削除ガイドライン ] [ よくある質問 ] [ 管理人へ連絡 ]
https://w.atwiki.jp/chine_miku/pages/67.html
- シルバーウィーク、終焉 せっかくのいい機会だったというのに 結局休みの間、何も更新しなかった今日この頃、 皆さんはどんな休日を過ごされたでしょうか。 例の新作については、心配しないで下さい。 ちゃんとフル音源&PV完成させましたので 週末あまり混雑してない時間にでもニコニコにUPします。 えー、俺がこの休みの間何をしていたかといいますと… ポケモンやってました。 このたび金銀バージョンのDS版リメイクが出たということで 当時を思い出しながら進めているところなんですが、 シナリオに新しい要素はあるものの、大まかなマップ、ストーリーは一緒です。 ゆえに、俺くらい初代のバージョンをやり込んでいると、 もう攻略本なんていりません。 ポケモンの出現場所も、トレーナーの使ってくるポケモンもほとんど記憶してます。 気持ち悪いね、いい年して。 …最近BLOGコーナーしか更新してないうえ、 本来の活動である替え歌の話もまるで出てこない始末。 「痴音ミク」自体の存在が危うくなっているようにも見えますが、 まだ大丈夫です。 …大丈夫です。 戻る コメント 痴音ミクは、不滅だと僕は思っていますから。大丈夫です。 -- サーモン (2009-09-23 23 39 39) ヘヤニコモリーの定理楽しみですwwwwwwwww -- サーモン (2009-09-24 00 20 09) 痴音ミクさん!応援してます!(色々な意味で) -- なつめ (2009-09-24 18 32 39) 「MO-SO」楽しみにしてますw -- 痴音ミクファン (2009-09-24 23 16 54) むしょくしゃまを聞きたいのですがどこで聞けますか -- K (2009-09-27 22 57 12) 痴音ミクno -- 名無しさん (2009-09-28 12 35 51) 痴音ミク動画毎日見てます。僕は「きもおた」「何もかもが無駄だった」が特に好きですね。替え歌をきっかけに本物の歌詞を知ったら、良い歌過ぎて笑えましたwww -- オンドゥル (2009-09-28 12 42 33) 初めまして川図書と申します。 今回もいいできでしたよwww -- 川図書 (2009-09-29 10 42 01) 楽しみにしてたのに、気づいたら上限いってダウソできなかった><再々配信お願いします -- 名無しさん (2009-10-05 15 44 45) 絶望再うp -- 名無しさん (2009-11-06 12 37 13) おもろい、替え歌考えたんだけど -- 名無し (2009-11-29 11 16 07) 替え歌キミノカオ ,元曲abingdon boys school キミノウタ -- 名無し (2009-11-29 11 18 55) 君の顔に、今モザイクかけよう、鏡を見て落ち込まないで -- 名無し (2009-11-29 11 20 59) 湿ったデスクトップ 錆びた部屋の臭いに吸い込まれてきそうで -- 名無し (2009-11-29 11 23 12) ずっと篭りながら 小さく膝を抱えて -- 名無し (2009-11-29 11 24 11) 暗い部屋を眺めていた -- 名無し (2009-11-29 11 25 01) あの日君がくれた カタログさえ -- 名無し (2009-11-29 11 25 46) 忘れてしまう程 「ユガンダ」この心で、俯く その時は -- 名無し (2009-11-29 11 28 11) いつでも有希が、側にいるから -- 名無し (2009-11-29 11 32 25) 君の顔に 今モザイクかけよう -- 名無し (2009-11-29 11 33 54) ブサイクなら -- 名無し (2009-11-29 11 34 20) 求めたのは イケメンなfaceだけ -- 名無し (2009-11-29 11 35 53) 鏡を見て、落ち込まないで -- 名無し (2009-11-29 11 37 00) 閉ざした扉から 嘆く親の悲鳴が -- 名無し (2009-11-29 11 39 58) 掻き消されてゆくように -- 名無し (2009-11-29 11 40 37) どうして僕だけが クラスで嫌われるだけ -- 名無し (2009-11-29 11 42 51) 生まれたわけが分からない? -- 名無し (2009-11-29 11 45 44) ひとり見た画面が 色褪せても -- 名無し (2009-11-29 11 46 48) 壊れてしまうくらい 「イビツナ」この世界(次元)で -- 名無し (2009-11-29 11 48 11) 僅かな 輝きで -- 名無し (2009-11-29 11 48 41) 自分の嫁を 僕は探すよ -- 名無し (2009-11-29 11 49 57) どこまででも この想いを届けよう -- 名無し (2009-11-29 11 50 36) 溢れたまま -- 名無しさん (2009-11-29 11 50 47) 遥か遠く 君を愛してるから -- 名無しさん (2009-11-29 11 51 26) その瞳を そらさないで -- 名無しさん (2009-11-29 11 51 42) 君の顔に このモザイク捧げよう -- 名無しさん (2009-11-29 11 53 18) ブサイクだから -- 名無しさん (2009-11-29 11 53 58) キモい顔は 二度と変えれないけど -- 名無しさん (2009-11-29 11 55 58) そのfaceを さらさないで -- 名無しさん (2009-11-29 11 57 09) やっぱキミノカオより、オレノカオのほうがいいかも -- 名無しさん (2009-11-29 11 58 09) 12月16日abingdonのシングルが出るから買ったほうがいいあの曲泣ける -- 痴音ミクファン (2009-12-02 17 21 14) しかも525円 -- 痴音ミクファン (2009-12-02 17 21 54) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/live_love/pages/22.html
部員 1 DMK:部長 2 JOHNNY:副部長 3 天夜:王子 4 いちご:王女 5 しゅうと:看板娘 6 黎明:生徒会長 7 may :副生徒会長 8 つき:文化委員 9 ct:保健委員 10風君 美化委員 11あこのん:部員 12萌:風紀委員 13抹茶:書記 14HAL 顧問(支部長) 15黒宮:お昼寝委員 16羅兎:図書委員 17潤:暗殺部隊 18KAME 副代表 19さるの:放送委員 20ミハル:部員 21沙夜:後輩 22メビウス:先輩 23あきら:看板娘 24みるく:記録広報委員 25愛羅:HR運営委員 26アウス:切込み隊長 27みずき:七変化 28氷結:守護者(勧誘) 29時雨:会計 30雨霧潤:召使 31ユウヤ:新撰組 32hirotaku 手下 33白亜:メイド 34かが:庭師 35ひな:潜入員 36咲苦魔:門番 37カラス:体育委員 38響:特殊部隊隊長 39狂華:部員 40霧人:執事 41ゆあ:キティ姫 42月詠:ジョーカー 43暁音:お姉さん部員 44まいご:部員 45美波:主人公 46てろて13:死神 47変声:鳩山ソーナンス 48ハーブ:花咲く 49りとるぶれいばー:部員 50アムロ大佐:窓際係長 51真砂ゆう:部員 52かいん:学芸委員長 53シュウ:部員 54ちゃちゃ:看板娘 55まふぅ:部員 56あくま:部員 57粒輝:にゃんちゅう 58しおり:部員 59ぐっさん:部員 60テツ:部員 61吟:ヒロイン 62かなん:雑務全般 63まち:部員 64RAMI:マネージャー 65 バナミ:果物配達員 66 奏:部員
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/330.html
そのじゅうろく「僕らの上に雪が降る」 雪が降る 雪が舞う 雪が散る 真っ白い空 真っ白い大地 真っ白い世界 世界に僕はただ立っている 世界にいるのは僕と少女 世界に他に人はなく 白く降る 白く舞う 白く散る その少女はとても小さい 広くもない世界に埋もれそうに それでも消えてなくならない 僕と少女は一緒にいるから 僕は少女を見る 少女は笑う それは ただの反応の そのための反応でしかなかったとしても 僕はその笑みを見て笑う 雪降る空 雪舞う大地 雪散る世界 僕らは小さく あまりにも未熟で 今までの短い人生に誇れるものは少なく ただそれだけの存在でしかないけど 空も大地も世界も白く その尽くが一点も滲まない ただ真っ白なままで 見据える先に色はなく それでも どうか どうか僕らを 僕らを導いた人よ これからの先は 僕ら二人で歩かせてください 目に映るこの先の世界を まだ色付く前の世界を 僕らはあなたの手を離し 進むことを どうか安らかに 祝福を この先が どのような道程なのか 僕らに知る術はないけれど もしかしたら それは道ですらなく ただの白いだけの荒野かもしれなくとも 僕らは お互いの手を取り ゆっくりと ゆっくりと 足跡を残そう 雪で埋まったこの大地は 何処までが本当に地続きなのかさえ判らないけれど 曲がりながら 迷いながら 間違えながら それでも僕らは歩いていきます だから だから ただ さよならと その日は朝から雪が降っていた。 記録的な大雪で学校は休校。 突然振ってわいた休日になんとなく時間をもてあまし、僕とティキは防寒対策を取って、白く染まった町を歩く事にした。 雪のせいかそれでも外は明るく、なのに車の音さえしないのがチョットした異空間を演出する。 初めて見る雪に、ティキははしゃぐ事も忘れ僕の肩の上で舞い散る雪に見入っていた。 立ち止まっては進み、進んでは立ち止まる。 そして完全に、足が止まった。 「マスタ」 小さく、小さく呟かれたティキの声。 「ティキにとって、『オーナー』だった人は二人いるのですよぉ」 「うん?」 「ティキはきっと、旦那さんの事を忘れる事は出来ないと思うのですよぉ」 「うん、そうだね」 「でも……」 ティキはそこで言葉を止める。 あたりを静寂が包む。 僕はティキの意図がわからないまでも、ティキが言葉を続けるのを待った。 「でも、ティキにとって、マスタはマスタだけですぅ」 そしてティキは僕の顔を見た。真摯な、その瞳で。 「だから、マスタはティキを置いてどっかに行かないで欲しいのですよぉ。ティキは、マスタがいなくなったら、きっと、旦那さんの時の様には出来ないですぅ」 その言葉に、僕は笑って「バカだなあ」という事は出来ない。 ティキも僕も、簡単に冗談めかして済ますことは出来ない。 だから僕もそのティキの思いに、やっぱり真剣な思いで答えるしかない。 「……僕はティキを置いて行ったりしない。僕達は出会ってまだそんなに長くはないけど…… 最初に約束したろ? 僕はこれから君と一緒の時間を過ごすよ。って」 「……………………」 何もいわないティキの頭をそっと撫で、僕は言葉を続ける。 「だから、もう一回約束するよ。僕はこれからの時間をティキと一緒に歩む」 それはただの口約束にしか過ぎないのかも知れないけれど。 それでも、多分に儀式めいていて。 そして、ティキは笑った。 それを見て僕も笑う。 そして僕らはどちらからともなく、真っ白い空を仰いだ。 静寂が優しく僕らを包み込む。 しばらくそうして二人で黙って空から舞い散る雪を見た後、僕らは再び歩き出した。 そのままセンターに向かう。 少し冷えた体を、温めよう。 そしてその日、ティキはセカンド昇級資格を手に入れた。 おわり / もどる